「ま、初志貫徹ってことで・・・」
あっちの見るからに怪しい方はこっちの部屋を調べたあと行けばいいや。
そう思って細い廊下を無視して、正面の扉へ向かって歩いていった。
「それにしても・・・大きな扉だなぁ。何の部屋なんだろう。」
この時あたしは好奇心いっぱいになっていて自分が何処にいるのかと言う事をあまりよく考えていなかった。
僅かに開いていた扉の隙間に手を差し込むと、扉はギギッと言う鉄の扉特有の音を立ててゆっくり開いていった。
「ふぅ、重かった。さてと・・・李厘ちゃ・・・」
部屋の中に足を一歩踏み入れ、李厘ちゃんの名前を呼びかけた所であたしの体は一歩も動かなくなってしまった。
誰かに何かされたわけじゃない。
ただ、目の前にあるものを見たら・・・声が出なくなってしまったのだ。
どうして部屋に入る前に気づかなかったのか、様々な機械のモーター音が途切れなくあたしの耳に響いてくる。
薄暗い部屋には黄色い紙に黒字で「人禁」と書かれた張り紙と共に、とてつもなく大きな・・・人がいた。
(もしかして・・・これが・・・牛魔王?)
まるで何かに引き寄せられるかのように、一歩また一歩と牛魔王に近づく。
もはや妖怪なのか人なのか生きているのか死んでいるのかさえも分からない、チューブで体をつながれた・・・モノ。
目を閉じる事も気を失う事も出来ず、あたしは何かに魅入られたかのように暫く牛魔王の姿をじっと見ていた。
やがて体が次第に震え始め、自分の状況をようやく脳が認識した。
これ以上ここにいたら何処かおかしくなってしまう。
震えだす体を両手で必死に抱え込み、何とか体を反転させ出口に向かおうとしたが、体の震えは一向に治まる事無くあたしの体の自由を奪っていった。
(怖い・・・怖いよ・・・)
恐怖がピークに達し、涙があとからあとから溢れ始めた。
こんなにまでして玉面公主は一体何をしたいのか、愛する人を生き返らせたいだけなのか・・・それとも他に何か理由が・・・?
「そこにいるのは誰!!」
突然背後から声を掛けられ、ゆっくりと振り返る。
「貴方ここで何をしてるの!!」
ヒステリー気味な声と・・・ソバージュがかった短い髪の眼鏡をかけた女性。
確かこの人は・・・ニィ博士とよく一緒にいる・・・人?
今だ虚ろな目をしているあたしの手を、その人は思い切り掴んで睨み付けた。
「ここは立ち入り禁止の場所なのよ、それを分かっているの!」
もう、あたしは何も考えられなくなっていた。
牛魔王の、目に見えない何かに押しつぶされてしまった心。
あたしの手を掴んだ相手すら、今はもう誰だか分からない。
(誰か、助けて・・・悟浄・・・三蔵・ ・ ・悟空 タスケテ 八戒)